海外温泉事情 イタリア・アバノテルメ
水の都ベネチアから、車で約1時間。アバノテルメは、74軒の温泉ホテルを中心に民間主導でまちづくりを進めている、きわめてユニークな保養地です。
各ホテルの中には、ファンゴ(火山灰)による泥パック、サウナ、プール、吸入、マッサージなどの医療施設が備わっており、温泉療法の指導者も控えています。
ホテルによって町並みが形成されている点は、日本の温泉地とよく似ています。民間―公共との息もピッタリで、市長は「市も観光温泉局を中心に、全面的にバックアップしています。」とのことです。
ヨーロッパの温泉は一般的に医療利用が中心で、イタリアも広い湯船に浸かってくつろぐという風習はありません。治療、予防、美容のために活用するのです。宿泊費は個人負担ですが、年間2週間の温泉療法が医療保険で認められています。人口2万人ほどのアバノテルメ市に、年間約9万人が国の医療保険を使って温泉療養にやってきます。年間の宿泊者は延べ200万人で、半数は外国人とのことです。ドイツ語圏であるドイツ、オーストリア、スイスが多く、次いでフランス。日本人向けに日本語のパンフレットもあり、観光に力を入れている姿勢が伝わってきます。
宿泊客の平均滞在日数は、9日間です。このため、ベネチア、フィレンツェなど近くの観光地へバスツアーを組み込むなどのサービスを提供しています。また、散策のための歩行者ゾーン、公園広場、ショッピング街の環境づくりを官民一体となって進めています。サイクリングロード、ゴルフなどスポーツ関連の受け入れ設備も熱心でした。
アバノテルメの温泉医療の中心は、なんといってもファンゴと呼ばれる火山灰による泥パックです。ファンゴは、採取後ホテルの池で2ヶ月間熟成させます。これを40〜42度にして、腹や心臓部を除いた全身に塗り、布に包んで15〜20分間横たわるのです。関節炎、骨関節症、リウマチ、美容などに効果があるとされます。その他、吸入にも力を入れています。
ホテルの経営者も「昔から身体によいとわかっていた温泉だが、近年は医学的なメカニズムも解明されてきた」と、温泉の効用の科学的説得力に強いこだわりがあります。
アバノテルメは、隣接する温泉地モンテグロットと一緒に、民間の温泉研究センターを設置。専門の研究員を置き、古い伝統を持つバドバ大学と協力して、温泉の効用の科学的根拠を追究しています。
ファンゴには塩分、臭素、ヨードなどが含まれていることがわかっていましたが、さらにファンゴの中に生息している藻類が産生する有機物質に抗炎症作用があることを突き止めています。研究所の科学部長は「私は医師でもありますが、この物質は皮膚から体内に入り炎症を抑制します。非ステロイド系の消炎剤と同じ臨床効果があります。」と自信を見せました。また、温泉療法には予防にも有効で、副作用がないこと、薬剤費の削減などで医療経済的にもメリットがあることをあげました。
火山国である日本にも、豊富なファンゴがあります。一部に「泥湯」はありますが、温泉資源としてもっと活用してもいいのかもしれません。
いずれにしても、民間の力でこれだけの温泉療法をおこなっている保養地は、世界的にもきわめて珍しいでしょう。日本の温泉にとっても科学的な姿勢、官民一体の協力体制、まちづくりの手法、温泉療養の宿づくりなど、大いに参考になると思います。
参考文献:温泉療養の手帳 (社)民間活力開発機構